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こんにちは! いつも「月刊 商店建築」をご愛読いただき、どうもありがとうございます。 「月刊 商店建築」編集部の塩田です。
新年度が始まって、1か月半くらいが経ちました。 新人の皆さんは、職場でのコミュニケーションは、うまくとれそうですか。 そして、先輩や上司の皆さんは、後輩や部下とうまくコミュニケーションできていますか。 最近、「不適切にもほどがある」というドラマが話題になりましたが、いつの時代も、異なる価値観を持つ世代間でのコミュニケーションは、一筋縄にはいかないようですね。
さて、本日はゴールデンウイーク後の時期に毎年お送りしている「号外メルマガ」をお送りいたします。 今回のテーマは「コミュニケーション」。三つのパートに分け、さまざまな業態の事例を通して「コミュニケーションを促進する空間」をご紹介していきます。
■Part1:コミュニケーションを生み出すオフィス空間 ■Part2:商品を販売する前に、まずは「ブランドコミュニケーション」 ■Part3:街に広がるコミュニケーション空間
そもそも、人間のコミュニケーション能力には、動物としての限界がある。とされており、その限界が150人程度と言われています。これは「ダンバー数」と呼ばれます。しかし、私たちは「我々、◯◯◯社の社員」「私たち、日本人」などといったように身体的な限界を超えて、150人よりはるかに多い大量の人々を仲間だと認識できています。これは、私たち人類が、「虚構の物語」を共有することで、素朴な実感を超えた範囲の人々を、同志や同胞として認識できるようになるという、限界を超える「発明」をしてきたからです。 (これに関しては、大ヒットした書籍『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)の中に、「農業革命」「科学革命」と並ぶ「認知革命」として丁寧に描かれているので、ご興味ある方は、休日の読書にオススメです。)
最近、オフィスの設計に関して設計者の方々と話していると、「エンゲージメントを醸成できるか」「カルチャーを共有できるか」といったことが設計のテーマになっていると感じます。 それらを満たすためには、先ほどのダンバー数の考えに従うなら、社員数150人を超える規模の会社になると、社員間に紐帯をもたらす何らかの「虚構の物語」が必要になります。 その物語の一つが、オフィス空間の役割なのかもしれません。
【Part1:コミュニケーションを生み出すオフィス空間】
まずは、そこで働く人たちの間にコミュニケーションを促進するようなオフィスを紹介します。 コロナ禍以降のこの数年で、在宅勤務を含めたリモートワーク制度が定着しました。そうしたワークスタイルは、業務効率の向上や人材の確保には効果があるでしょう。しかし一方で、リモートワークの影響で、社内の人同士の、あるいは、取引先や顧客とのコミュニケーションをとる機会が減っているのではないでしょうか。 そのため、今、オフィスの設計においては、「出社したくなるオフィスをどうつくるか」「社員同士が顔を合わせる短い時間の中で、いかに創発的で効率的なコミュニケーションを促すか」が重要になっています。
パナソニック・クロスシー カドマ |
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「Panasonic XC KADOMA」はパナソニックのグループ会社が入居しているオフィスです。 ワーカー同士のコミュニケーションを活性化させるため、屋内と屋外をまたぐようにして気持ち良いテラスや屋外通路がたくさん設けられています。 テラスには、ミーティングスペースや個人が集中できるカウンター席など、多様な席があり、開放的な空気に誘われて、思わず会話が弾みそうです。(商店建築23年11月号掲載) |
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日建設計 東京コレクティブフロア / ピント |
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この空間は、いかにして「社内コミュニケーションと社外コラボレーション」を促進するかをテーマとして、設計されました。 特に、3階「PYNT」には、気軽に勉強会やワークショップを実施できる空間や、体験型のデジタルスタジオ、試作品が展示されるギャラリースペースなど、人々の脳を刺激しそうな仕掛けが盛り込まれています。 実際に取材で訪れてみて、「単なるコミュニケーションラウンジではなく、こうした創造的な刺激やきっかけがあれば、"意味のある雑談"が生まれやすく、そこから新しいアイデアや解決策につながっていきそう」と感じました。(商店建築23年11月号掲載) |
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まちのシェアスペース ジバノジバ |
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さて、少し視野を広げれば、コミュニケーションを取る相手は、社内の仲間や取引先の人たちだけとは限りません。 例えば、会社の周囲に住んでいる地元の住人とコミュニケーションを取ることも、企業には有益でしょう。 興味深い実例がこちらです。 これは、電子部品メーカー大手TDKの企業寮なのですが、社員食堂が、ランチタイムにはレストランとして地域の人たちにも開放されています。 企業の施設が地域拠点になったり、その空間を通して企業が地域貢献したりすることで、新たなサービスや製品を生み出すサイクルにつながっていく。そんな試みです。(商店建築23年12月号掲載)
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CLAY(クレイ) |
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続いて、富士フィルムのスタジオ型オフィス「FUJIFILM Creative Village CLAY」をご紹介します。クレイは、ただいま制作中の「月刊 商店建築」24年6月号に掲載しますので、詳しくは、そちらをご覧ください。簡単に言いますと、クレイは、富士フィルムの社内デザイナーが集まって仕事をするためのオフィスです。 これは、あえて今のトレンドと逆行するかのような、リラクセーションスペースもコミュニケーションラウンジも持たない、非常にストイックな空間です。社内デザイナーたちが切磋琢磨しながら、価値あるデザインとは何かを追求していく。そんな緊張感漂うスタジオのようなオフィスです。 もしかすると、そんな、プロフェッショナル同士が日々の業務を通して、本質的で熱い議論を交わすことこそ、オフィスで求められている究極のコミュニケーションの姿なのかもしれません。 24年6月号「オフィス特集」を、どうぞお楽しみに。 (設計:コクヨ、撮影:ナカサ&パートナーズ、24年6月号掲載予定) |
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【Part2:商品を販売する前に、まずは「ブランドコミュニケーション」】
さて、次に皆さんにお伝えしたいのは、「ブランドコミュニケーション」です。 ブランドコミュニケーションというのは、企業やブランドの世界観を顧客に体感してもらうことです。 現在の大きなトレンドは、いきなりお客さんに商品やサービスを売りつけるのではなく、まずお客さんに「そのブランドがどのような理念や価値観を持っているのか」「どんな人がどんな素材とプロセスで商品をつくっているのか」を体感してもらった上で、お客さんがそのブランドのファンになったり共感したりしたら、初めてお客さんが商品を購入するという売り方です。 そうしたスタイルの店舗は、現在、無数にあるのですが、最近の取材事例をいくつか紹介します。
atelier京ばあむ |
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「京ばあむ」の看板商品は、京都土産として有名なバウムクーヘンですから、皆さんも見たことがあるかと思います。 「atelier京ばあむ」は、「和の食材と洋菓子の融合」という世界観を伝えるためのフラッグシップストアです。 ショップやカフェの他、商品の製造工程を見学できる空間もあります。(商店建築24年4月号掲載) |
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レンズ パーク |
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続いては、メガネの聖地、福井県鯖江市にあるカフェ併設のレンズギャラリーです。この施設は、レンズメーカーが、工場の隣地に計画しました。 ギャラリー、ショップ、カフェ、ワークショップのための空間で構成されています。 この店では、レンズやメガネを販売することもさることながら、300色以上あるレンズを実際に手にとって見ながら、まず「自分に合ったレンズを選ぶことの楽しみや、目を守ることの大切さ」を学んでもらい、その後に購入につなげていきます。(商店建築24年5月号掲載) |
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オーバーコート東京 |
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さて、続いて紹介するのが、「OVERCOAT TOKYO」という、スタジオ兼ブティックです。こちらも、ただいま制作中の「月刊 商店建築」24年6月号に掲載しますので、詳しくはそちらをご覧ください。 この空間は、アパレルブランドのショップでもあるので、そこで洋服を購入できるのですが、ショップ機能より、むしろ空間の中央に鎮座するワークスペースのほうがインパクトがあります。 そこでは、ブランドのスタッフが実際に制作作業をしています。 飲食店に例えるならシェフズテーブルのようです。ものが生まれてくる瞬間に立ち会いながら、シズル感あふれる空間で洋服を買う。そんな空間です。 (設計:アトリエライト、撮影:長谷川健太、24年6月号掲載予定) |
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商店建築2024年1月号 特集 |
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なお、「ブランドコミュニケーション」のための空間デザインに興味のある皆さんは、「商店建築2024年1月号」の特集〈「生産現場」を修景し、ブランドストーリーを構築する〉をご覧ください。 その特集では、食品や化粧品を製造するブランドの製造拠点を取材しました。それらは、いずれも、立地や建築の在り方も含めて、そのブランドが何を大切にし、どんな人たちがどんなふうに商品を製造しているのかを、お客さんに包み隠さず伝えるための施設です。 消費者が生産現場に立ち会い、企業と消費者がブランドストーリーを共有していく。それが、現代のモノの売り方です。
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【Part3:街に広がるコミュニケーション空間】
今回の「コミュニケーション」をテーマにした号外メルマガ最後のパートは、「街に広がるコミュニケーション空間」です。 オフィス内やショップ内のコミュニケーションも非常に重要ですが、何と言っても、街の中に、人々が自然なコミュニケーションをしている風景があると、街全体がとても生き生きしてきますね。 「その店があることで、街に魅力的な風景が生まれている」という状態をつくることが、今、商業空間デザインにおいて最重要テーマになっていると言っても良いかもしれません。
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー |
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一つ目に紹介したいのが、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」です。これは、垂直方向に伸びた巨大な街と言えるような複合ビルです。 特に、虎ノ門ヒルズ駅のコンコースから直結している、地下2階「T-MARKET」は、まるで駅前の市場や商店街をスタイリッシュに現代的に再現したかのような空間です。 施設内では、店と共用部の境界線をなるべく曖昧にし、一つの大きな空間の中で、食事をしている人、買い物をしている人、仕事をしている人が、思い思いに場を共有している。そんなおおらかな居場所のような空間です。 そして、ビルの上階には、オフィス、ホテル、ギャラリー、飲食フロアなどがあり、一日を通して「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」のさまざまな場所をホッピングしながら過ごすことができます。 そんな複合施設の中で、仕事の仲間とばったり顔を合わせて、そのままお気に入りのカフェでお茶を飲みながら、じっくり近況報告をし合ってしまった。実際に、私自身が、この場所でそんなコミュニケーションを体験しました。(商店建築24年5月号掲載) |
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ハラカド |
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次に紹介したいのが、東京・原宿に開業したばかりの「ハラカド」です。 こちらも、現在取材中ですので、近々の誌面をどうぞお楽しみに。 「ハラカド」は、たくさんのクリエイティブなコミュニケーション空間であふれています。 公園を模した誰もが自由に過ごせるフロアや、たくさんのクリエイターが仕事をしたりイベントをしたりして一日中過ごせる"共創フロア”など、参加型のコミュニケーション空間が随所にあります。 上階の飲食フロアは、横丁のような賑わいのあふれる空間で、仕事の後の「飲みニケーション」でますます互いを深く知ることができそうです。
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狛江湯 |
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さて、街角に賑わいが滲み出すコミュニケーション空間は、大型施設だけではありません。 昔ながらの町の小さなコミュニケーション空間もあります。その一つが、銭湯です。 例えば、「狛江湯」。ここは、ハイクオリティーなサウナを備えて生まれ変わった、町の銭湯です。店先の番台は、気軽なビアスタンドにもなっていて、大きな開口部を通して、日常の穏やかなコミュニケーションの風景が、町へと滲み出していきます。(商店建築24年3月号掲載) |
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Cafe関連 増刊号 |
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最後に、「街に広がるコミュニケーション空間」といえば、何と言っても、カフェですよね。 店の軒先、ファサード、開口部などをうまくデザインすることで、カフェでのコミュニケーションの風景は、街並みの一部を形成することができます。そして、そうした小さな店舗が生み出すコミュニケーションの風景が積み重なって、その街の印象ができあがっていきます。
カフェの空間デザインに興味のある方は、増刊号『good design cafe vol.4』『STARBUCKS Store Design』をご覧ください。 たくさんの写真と図面で、設計のコツを掴むことができます。 |
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【おまけ:商店建築社が発信するコミュニケーション】
最後に、お知らせです。 コミュニケーションの生まれる場といえば、「月刊 商店建築」を発刊する商店建築社では、設計者、建材メーカー、ディベロッパー、読者の皆さんとのコミュニケーションの場をつくっています。 誌面だけにとどまらず、「商店建築サロン(月1回程度開催)」「商店建築ラウンジ(東京ビッグサイトで開催)」「各種ウェビナー」などを開催し、皆さん一人ひとりが新しいコミュニティーを育み、新しい情報に触れて、皆さんの日々の仕事が発展していくような場づくりを目指しています。 メルマガやSNSで開催情報をお送りしますので、お気軽にご参加ください。
お忙しい中、最後まで読んでくださり、どうもありがとうございました。
5月28日発売 定価:2,358円(税込)
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【次号予告】商店建築6月号
■業種特集/創造性を刺激する〈クリエイティブ系オフィス〉 今回のオフィス特集は、クリエイティブな働き方や、創造的な成果を求められるオフィスを掲載します。メーカーやクリエイティブエージェンシーなどの企業のオフィスを取材予定です。また、「創発的なオフィスに欲しい仕掛け」や、「あえてコミュニケーションスペースをつくらず、創造性に特化したスタジオ型オフィス」なども取材します。
■業種特集/最新アパレルショップのデザイン 国内外の注目アパレルブランドのショップを集めました。インパクトのあるファサードや、シンプルながら上質感のあるインテリア、精緻な什器など、設計の参考になる見どころが盛りだくさんです。
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